おのぼり音楽紀行

ヴァイオリンと共にフランスに滞在。ゆるりと日々のこと、思ったことを書き記します。

弦楽器工房と弓工房 Le luthier et l'archetier

今回は楽器の話。

 

実は昨年楽器を新しく購入した。

その話をサックス吹きの友人にすると、どこの楽器店で購入をしたのか尋ねられ、かなり驚いた。

私の中ではすっかり常識だったので驚いたのだが、量産されたものではない弦楽器の購入を考えた際、私たちは街の楽器店に行き、購入することはまずない。

 

私たちが訪れるのは弦楽器職人の工房である。

大抵の工房はメンテナンスや修理だけでなく、楽器の販売、貸出も兼ねていることが多く、その工房が持つ楽器を見せてもらうのである。

その工房がどこかからか仕入れ、メンテナンスをした楽器の場合もあれば、その工房の職人が1から作った作品の楽器であることもある。

ちなみに後者の人気の工房の場合、1つの楽器を製作するのにおよそ3ヶ月から半年を要するため、リスト待ちになったりする。

日本ではヨーロッパより需要が少ないので、弦楽器の工房といえば、ヴァイオリン本体から弓全てのことを兼ねていることが多い。

 

ここでフランスのすごいところは、弓だけのための工房 Archetierが存在することだ。

要するに弓のスペシャリストがいるのである。

考えてみれば、ヴァイオリン本体と弓の作りは当然全く違うものなので、同じ人が全てするのも少し変な話である。

 弦楽器を知らない人は弓の大事さがあまりピンとはこないだろうが、弓は私たちにとって料理人の包丁のようなものだ。

わずかな木の重さ、バランス、しなり具合などで、音は全然違うものになる。

弓にも名器と言われる弓があり、それらはフランス発祥の文化なのである。

今でもフレンチ弓が最高峰と言われている。

ヴァイオリンといえば、高額で知られている名器ストラディヴァリウス、ガルネリなどはかなり有名だと思うが、あの美音を鳴らすのに半分はそれもまた名器の弓が担っているのだ。

そのクラスの弓になると弓1本で家を買える値段といえば、分かりやすいだろうか。

 

弓のスペシャリストがいることの、分かりやすいメリットは毛替えが大抵上手であることだ。

毛替えとは、弓の毛は馬のしっぽなので消耗品が故、大体半年に一度を目安に交換することである。

そこに技術があるとは私もさほど思っていなかったのだが、ある時別の工房で交換をした時に交換をする前より弾きにくくなってしまったなんてこともあった。

 

弦楽器は楽器のパーツが多いせいで、全てがうまくいっていないと良い音が出ない、なかなかにややこしい楽器である。

ちなみに弦ももちろんその一つで、以前書いた記事はこちらから。

kasumiviolino.hatenablog.com

 

実は今私はめちゃくちゃ弓の毛替えをお願いしたいのだが、なんせ外出禁止令が出ているので、工房にお願いはもちろんできない。

今はせめて楽器に不備が出ないようにしたいものである。